ナショナル・ジオグラフィックの医師、神尾陽子先生の記事の第3回です。
「会話の中で、ある言葉が出てきたら、次に近い意味の言葉が出てきた時に、定型発達の人は反応速度が早くなるんです。でも自閉症の人は、そのスピードがほとんど速くなりませんでした。前にどんな刺激を与えても回答のスピードはほぼ一定。だから連想という無意識レベルの効果がなくて、そのために会話がむずかしくなるだろうなという結論です。会話をするというのは、相手の話を聞いて、自然に自分の中で連想がわいて、ということの連続じゃないですか。でも、それがないわけだから、自然にできないんです。一方で、絵を見せると連想がよく働くことも分かって、つまり意味は分からないわけではないのに、言葉を使う時に連想が働きにくいわけです」
ぼくたちは言語を当たり前のように使っているけれど、よくよく考えてみるととても不思議だ。書き言葉と話し言葉があって、それらが不思議な形と音を持っていて、目でその形を見たら音が頭に浮かぶ。しかも意味と結びつく。ものすごく複雑な処理をしている。自閉症を持つ人は、その一連の中のどこかがうまく働かなくて、連想が出にくくなるという見立てだ。
「それまでにも自閉症の支援では、絵で見て分かるように構造化していこうという、アメリカ、ノースカロライナ州で始まったTEACCHという環境調整を重視する(包括的な)アプローチがあって、視覚的な情報伝達を重視してきました。言葉ではなく、絵を使って伝えると、自閉症の子もよく分かるんです。ですから、わたしの研究で絵だと連想が働くという結果が出た時には、それを支持する例だと歓迎されました。経験上こうしたらいいって分かっている支援に、根拠を与えるような研究だったと思います」
言葉の反応速度に定型発達の人と自閉症の人で違うというのはなるほどなあと思います。
「──九州の町で、乳幼児健診に来る1歳半の子どもにずっと会い続けて、それでやはり予防が大切だという思いを新たにしました。スクリーニング検査をするのに反対する先生もいて、『早期発見をしても治るわけではないから』『早期発見したら気づかないで育てている親にショックを与えるから』というふうに心配されていたので、本当に注意してやっていきました。実際に、親御さんにお子さんの発達状況をお示しすると、やはりショックを受けて泣き出す方もいらして、でも、同時に、この子はこういうことが得意で、こういうのが好きだっていうのが分かってうれしいって喜ぶ、自分を奮い立たせるためにそうおっしゃるような方々も多かったんです。昨日、夫と家で乾杯したんですよって泣きながら言うお母さんがいました。やっぱり早くから発達の問題に気づけて、支援を受けることで、心の準備をしていただけることも多いと分かったので、そこからはいろいろ言われても、揺らぐことなくやり続けることができました」
繰り返しになるけれど、自閉症であることそれ自体、社会生活を難しくする。しかし、それ以上に、自閉症の影に隠れて見えにくい情緒や行動にかかわる合併症が、のちのち大きな問題になってくる。かつて、精神病院で半生を送らざるを得ないような自閉症患者が多くいたのは、雪だるま式に大きくなったうつや不安などの合併による部分が大きい。そのような転帰にならないようにするために、早期発見と早期支援、さらには環境整備が必要だ。神尾さんはそう強く考えるようになった。
もちろん、それを多くの人に納得してもらって実行に移すには根拠(エビデンス)が必要だ。神尾さんは、まさにその方向に足を踏み出す。
早期発見が大事だという事はこういうことなんでしょうね。
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