医師が子どもを「発達障害」と診断する難しさ<東洋経済オンライン>

東洋経済オンライン2020年5月2日の記事から。
脳波の検査や画像診断などでは発達障害とは判断できないという話です。
行動しか基準がないっていうのも中々困りますね。

発達障害(注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム障害、学習障害)の診断は、診断基準書(DSM)をもとにした専門家による問診が主で、特異的学習障害を除いて、この検査をすれば診断ができるといったものはありません。血液検査や脳波検査、MRIなどの脳機能画像、さらには知能検査などのさまざまな心理検査をしても、注意欠陥多動性障害や自閉症スペクトラム障害の診断をすることはできないのです。

注意欠陥多動性障害や自閉症スペクトラム障害の患者さんの脳機能画像や遺伝子検査では特徴的な知見が得られていますが、診断には使えないのが現状です。注意欠陥多動性障害の人では、前頭前野や尾状核という脳の部分の機能が低下していることが多いことがわかっていますが、それは機能の平均値が統計的に低いという程度であり、定型発達の人と明確に分けることができません。

自閉症スペクトラム障害における脳機能の変異が見いだせる脳部位は多様で、特に、前頭前野、前側頭部、そして扁桃体が挙げられます。それぞれ他人の意図理解、顔の表情の理解、情動コントロールに強く関わる部位です。

注意欠陥多動性障害では、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの脳内での働きに関与する遺伝子的な特徴(異常ではない)がありますが、その遺伝子特徴を持っている人が注意欠陥多動性障害とは言い切れないのです。

8歳の子供の事例が続いて載っています。

チェックリストと知能テストの結果から高機能自閉症という診断を受けた8歳男児
まず受診時の本人との対話から始めましょう。

私「今何年生?」 男児「3年生」
私「誕生日はいつ?」 男児「2月3日」
私「お母さんの名前は?」 男児「のぶこ」
私「お母さんの誕生日知っている?」 男児「11月8日?」
母親から11月5日と直しが入る。
私「好きな科目は?」 男児「図工、音楽、体育」
私「では嫌いな科目は?」 男児「国語」
私「友達いる?」 男児は2名の友人の名前を言う。
私「好きな食べ物は?」 男児「卵焼き、タクワン」
私「大きくなったら何になりたい?」 男児「消防士」
ちゃんと私の質問を理解しているな、と思いました。ここで母親に受診の理由を聞きました。母親は、人の言うことが聞けない、ニュアンスが理解できない、宿題になかなか取りかかれないなどの理由で、医療機関を受診し、そこで高機能自閉症と診断されたのだが、今一つ納得できないために受診したということでした。

医療機関から出された書類には、6項目の症状リストが書かれており、そのうち4つを満たしていること、さらに別途行った知能検査で知能指数が133と平均より高かったことから、高機能自閉症と記載されていました。

しかし、母親の話と担任の先生の話を聞くと事情が違う様にみえます。

 人の言うことを聞かない、という症状は、母親が詳細に記載した心配事のリストをよく読むと、公園のフェンスを乗り越えて公園に入り、係員に制止され逃げ帰ってくる、やりたいことを始めると制止しても聞かずに続けるといった内容であり、自閉症スペクトラム障害の特徴である、他人の意図が理解できないための行動特徴とは違います。

むしろ、意図はわかっていても従わない反抗的行動と解釈されます。これは、この男児の担任の教師の言葉からもうかがえます。担任の教師はこの男児のことを「素直な子だが(教室で)真っ直ぐ前を向くことが難しい」子と表現しているのです。自閉症で他人の意図が読めない子どものことを、「素直な子」と表現することは考えられません。

ニュアンスが読めない例としては、母親と友達と公園に行ったときに、お金を渡して「一緒に飲むために」ジュースを買ってくるように告げたところ、3本も買ってきてしまった。母親としては一緒に飲むのだから1本買ってくることを期待していたのに、母親、友達、自分にそれぞれ1本と誤解してしまったことを挙げています。

しかし、これも確かに母親の意図を正確に理解していなかったのですが、1人に1本ずつ買うという心配りの表れと見なすことができます。きっと他の人も飲みたいだろうな、という配慮が十分にできていたのです。

これは誤診断、過剰診断だとこの先生は仰っています。
では、なぜこういったことは起こるのでしょうか。

1つは、自閉症のスペクトラム障害の行動評価スケール(M─CHATなど)の結果をそのまま診断として捉えるという、チェックリストの意味の理解が不十分であったことでしょう。

前述のように、こうしたチェックリストは有用ですが、そこで自閉症のリスクが高い得点を得たとしても、それが正しい確率は50%前後なのです。チェックリストでハイリスクと判定された場合は、時間をおいて再度チェックすることで、診断の確率が上がることが調査によって明らかになっており、複数回チェックを行うことが推奨されています。
(中略)
もう1つの可能性は、自閉症スペクトラム障害という診断名にあるのではないか、と考えています。これまでに複数の小児神経科ないしは児童精神科の医師に、私が過剰診断の事例について話をしていた時に、「スペクトラム(連続体)という広がりを示す診断名なので、基準のすべてが揃わなくても診断してしまう傾向があるかもしれない」と自らの診療姿勢について語っていました。

誤診断は人間が行うことですからなくならないとは思いますが、ダブルチェックやチェックリストの研修等を実施して頂いて、防いで頂ければと思います。

全文はこちらから読むことが出来ます。

https://toyokeizai.net/articles/-/340329

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